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サーマル(赤外線)カメラドローンによる
野生動物観察の有効性と課題に関する考察

1. はじめに

近年、サーマル(赤外線)カメラを搭載したドローンは、夜行性動物や植生下に潜む個体の発見・追跡を可能にし、野生動物調査・記録における新たな観察手段として注目されている。

しかし、その有効性の裏付けとなる実践的知見は依然として限定的である。

 本研究は、NHKの動物番組制作において実施されたウズラ(2023年)および

ツシマヤマネコ(2025年)の長期観察事例に基づき、

サーマル(赤外線)ドローンの実運用における有効性、技術的・運用的課題、

動物への影響、および映像表現上の位置付けについて整理・考察することを目的とする。

2. 方法

2.1 観察対象および場所

  • 2023年5月 青森県仏沼:草原環境におけるウズラの探索・観察

  • 2025年 長崎県対馬佐護:農地生態系におけるツシマヤマネコおよび周辺生物の長期観察

2.2 使用機材および運用条件

  • サーマル(赤外線)ドローン(MAVIC3T Matrice4T等)

  • 1フライト約35分、充電約1時間20分 (Matrice4T)

  • 必要に応じLEDスポットライトを搭載し夜間観察を補助

  • 一部期間において2機体交互運用を実施

 

3. 結果

3.1 発見能力に関する知見

サーマル(赤外線)ドローンの熱源感知機能により、肉眼では発見困難な個体の検出が 可能であった。特に、気温の低い時間帯においては鳥類であっても明瞭な熱反応を   示し、アオサギ、タシギ、モズ、スズメ等の確認が可能であった。

一方、竹林や高茎草本植生など、赤外線の透過が阻害される環境では発見率が著しく低下した。

3.2 行動理解・生態記録の深化

ツシマヤマネコ観察において、上空俯瞰視点により、待ち伏せ地点の選択、

地形利用、狩猟行動の意図など、地上観察では把握困難な行動構造を連続的に

記録することが可能となった。

また、繁殖期における授乳・グルーミング・子育て行動、親子移動および狩猟体験学習過程等の貴重な映像記録を取得した。

3.3 運用上の制約

  • 日中の地表温度上昇により静止個体の識別が困難となる

  • 飛行時間・充電時間の制約により連続観察性が制限される

  • 夜間飛行・目視外飛行の法制度的制約が観察機会を制限

3.4 動物への影響

ヤマネコでは概ね直線距離20m程度で警戒反応が確認され、シカはより敏感に反応したがイノシシはほぼ反応しなかった。

一方、鳥類は比較的影響が小さい傾向が見られた。ただし、仏沼の観察では

およそ15m上空より降下させると、小鳥の行動が固まる(動かなくなる)

兆候が見られた。おおよその動物に於いてLEDスポットライト点灯時は移動を伴う際の警戒が顕著であり、ホバリング時点灯・移動時消灯が有効であった。

3.5 映像表現上の特徴

サーマル(赤外線)ドローン映像は状況把握には極めて有効である一方、監視映像的性質が強く、感情移入を促す映像表現には限界がある。

俯瞰監視機と低高度撮影機の役割分担、あるいは地上カメラとの併用により、立体的・物語的記録が可能となる。

 

4. 考察

本事例より、サーマル(赤外線)ドローンは野生動物の発見能力および行動理解の深化に大きく寄与する技術であることが示された。

一方で、植生条件、温度条件、法制度、バッテリー性能など、運用を制限する複合的要因が存在する。

また、動物への影響低減には距離管理、接近方向(風下接近)、ライト運用

方法などの運用プロトコルの整備が重要である。

さらに、サーマル(赤外線)ドローンは単独の撮影ツールではなく、観察・探索を担い、作品性や記録性を担保する地上・近接撮影との統合運用が望ましいと

考えられる。

 

5. 今後の課題と提案

  1. 高性能赤外線(IR)およびデュアルセンサー機材の活用

  2. 静音化および長時間滞空技術の導入検討

  3. 夜間・目視外運用に対応した体制整備および制度対応

  4. 動物福祉観点を踏まえた倫理ガイドラインの明確化

  5. 監視機+撮影機(または地上カメラ)による統合観察モデルの確立

 

6. 結論

サーマル(赤外線)ドローンは、野生動物観察・撮影において、発見能力、追跡能力、 安全距離の確保および行動理解の深化という点で極めて有効な手段である。ただし、その効果は環境条件や運用条件に強く依存し、動物への影響を最小化するための倫理的配慮および適切な運用設計が不可欠である。

今後は、技術・運用・倫理・映像表現を統合した運用モデルの確立が

求められる。

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